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東京高等裁判所 平成10年(ラ)2476号 決定 1999年2月09日

抗告人

今泉直俊

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨は、原決定を取り消すとの裁判を求めるというものであり、その理由は、別紙「抗告理由書」に記載のとおりである。

二  本件は、株式会社日本債券信用銀行(以下「日債銀」という。)が宮越商事株式会社(以下「宮越商事」という。)の有する不動産競売申立事件(静岡地方裁判所沼津支部平成七年(ケ)第三二三号)の配当金交付請求権を差し押さえた基本事件(債権差押命令申立事件)において、宮越商事から同競売申立事件を委任された抗告人(弁護士)が、宮越商事の代理人として抵当権付債権及び抵当権を行使して、不動産競売を申し立て、その手続を進行させた結果、日債銀は債権回収を図ることができるのであるから、宮越商事が抗告人に対して支払うべき弁護士報酬は債務者である宮越商事の財産の保存に関する費用であり、かつ、日債銀その他の債権者にとって共同の利益を受けた共益費用に当たり、民法三〇七条の先取特権を有するとして、右報酬請求権につき配当要求をしたのに対し、原審がこれを却下した事案である。

三 民法三〇七条の先取特権は、各債権者の共同の利益のために支出した債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在するものであるところ、このような費用は、各債権者が債務者の財産について権利を行使するために必要な費用であり、これを支出しなければどの債権者も自己の債権の弁済を受けることができないものであるため、他の債権者に優先して弁済を受けさせるのが公平であるとの趣旨で認められたものである。これを本件についてみるに、債務者である宮越商事において、不動産競売の申立てをすることが民法三〇七条の「債務者ノ財産ノ保存」に当たるとしても、これをしたのは宮越商事であって、抗告人は債務者である宮越商事の代理人として競売申立てをしたにすぎず、債務者の「財産ノ保存」に関し何らかの費用を支出したわけではない。抗告人は債務者である宮越商事との委託契約に基づき報酬請求権を有するにすぎず、これにつき民法三〇七条の先取特権を有するものではない。

なお、競売手続においては、申立債権者が支出した費用のうち競売手続に関与したすべての債権者の共同の利益のため要したものについては、共益費用として売却代金から最優先で償還されることになっており、債権者間の公平が図られている(民事執行法一九四条、四二条参照)。しかしながら、弁護士を代理人として競売を申し立てても、当該代理人に支払うべき報酬は、弁護士代理強制制度を採用しない我が国においては、右共益費用には当たらない。

そうすると、本件においても、抗告人が有する弁護士報酬請求権に優先的地位を与えなかったとしても、何ら公平の理念に反するものではない。

よって、本件抗告は、理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官奥山興悦 裁判官都築弘 裁判官佐藤陽一)

別紙抗告理由書<省略>

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